お蚕様のこと〜家蚕と野蚕〜



 野蚕は「やさん」と読みます。読んで字のごとく「野生の蚕」、言い換えるなら「天然のお蚕さま」です。いきなり野生の蚕と言われてもピンと来ないかもしれません。

 皆さまが良くご存じのカイコは「お蚕様」の名で親しまれ、シルクロードの昔から知られた絹糸を取る「家蚕(かさん)」と呼ばれるものなのです。クワコ(桑蚕)が起源とされる家蚕は、良質な絹糸を安定して生産する為に、長い時間をかけて品種改良された昆虫です。また養蚕農家の管理された屋内で飼育されます。

 ところで先ほど紹介した家蚕のご先祖さま「クワコ」は、本来自然の中で生きている「野蚕」の一種とも言えます。

 昆虫に限らず生き物は本来、自然の中で生きています。野蚕があってこその家蚕と言えます。



 蚕の分類は大まかには次のようになります。


 こちらは多様な野蚕(やさん)の一部を抜粋しました。世界中には他にも様々な「お蚕さま」が居ます。野生のお蚕さまである「野蚕」は、食べる葉も吐く糸も、そして生態も様々です。この為、それぞれの種類ごとに特性の異なる繭や蛹が取れることが分かって来ました。

 中でも弊社では、野蚕の一種である「ウスタビガ」を大量飼育し、そこから取れる繭や蛹が持つ機能を使って人の健康の助けとなる商品開発を行っています。






那須野が原と野蚕飼育の歴史について



 弊社はウスタビガの大量飼育を、「那須野が原」地域で取り組んでおります。

那須野が原は、栃木県北東部に位置する広大な平地とそれに続く、緩やかな丘陵、高原を指します。狭義には那珂川と箒川に挟まれた扇状地ですが、広義には箒川より北、福島県境までの山地を除いた地域約7万ヘクタールです。

 かつてこの地域は水源に乏しく、農業に適さない為、江戸末期までほとんど集落のない原野でした。しかし、明治維新の殖産興業政策により、明治18年(1885年)に那須疎水が引かれたことを皮切りに、更に開拓が進み、農業や酪農が盛んとなりました。

 この地域にこの時期、養蚕が導入されたのは、当時の絹産業の隆盛から容易に想像が付くかと思います。那須塩原市には今もたくさんの養蚕神社があり、弊社からも近い北赤田(那須塩原市)の農蚕影(こだま)神社もその一つです。


【養蚕発展を祈った北赤田(那須塩原市)のの農蚕影山(こだま)神社】


 明治13年(1880年)に野蚕である「天蚕(てんさん)」試養を目的として、馬頭出身の西山慎太郎氏らが設立した「漸進社(ぜんしんしゃ)」は養蚕史においても特徴的です。その名残として那須には「天蚕場(てんさんば)」という地名が今も受け継がれています。

実際に漸進社で飼育したのは、中国より移入された野蚕の一種「柞蚕(さくさん)」であったようですが、那須の野蚕飼育史にとって大きな試みでした。



【(左) かつての天蚕場 (右) 現在の天蚕場跡地】


 この試みと那須野が原の養蚕史にのせて、ウスタビガを含めた野蚕の持つ素晴らしい力を皆様に届けたいとの思いから、日々、大量飼育技術の向上と商品開発に努めております。






どうしてウスタビガなのか?

○野蚕であるウスタビガ蛹が持つ大きな力のこと



 私たちが那須連山の麓、大自然の中で飼育している「ウスタビガ(学名:Rhodinia fugax、ロディニア フガクス)」は野蚕(やさん)の一種です。
 その蚕蛾成虫は、翅(はね)を広げた長さである開張が80〜100mmにもなり、美しく透明の斑紋を持っています。その幼虫は、愛らしく「キューキュー」と鳴くことでも知られています。




この変わった野生の蚕は、繭をつくってから、か弱い蛹の姿で4か月もの長い間、厳しい環境の中で生き抜きます。

“お蚕さま”で良く知られる家蚕(かさん)が10日ほどで羽化することを踏まえると、ウスタビガの環境耐性の高さが分かります。

 実はこの長い蛹の期間が、その体に様々な機能を付加し、有用な成分を蓄えさせると考えられています。

 このような有用で貴重なウスタビガの蛹を、皆様の健康な生活に生かしたいとの思いからウスタビガの飼育を始めとした事業に取り組んでおります。
 尚、ウスタビガ蛹は、弊社の栄養補助食品「野蚕のやる気」に生かされています。

 現在、ウスタビガ蛹が持つ抗酸化を始めとした様々な機能を解き明かそうと、(株)バイオコクーン研究所(鈴木幸一社長)と共同研究を行っています。

○ウスタビガの繭の可能性


【クヌギの葉に包まるように作られたウスタビガの繭】


 家蚕は糸の利用を目的に人の手で飼育されて来ました。しかし安価な海外産のシルクや、ナイロンなどの化学繊維に市場を奪われ、国内の養蚕業は衰退の一途です。
 しかし現在、繭の繊維以外の利用法が研究されています。遺伝子組み換えカイコを使って狙ったタンパク質を作らせ、医薬分野への期待が膨らんでいます。また電子材料としても使えることが分かって来ました。

 弊社はウスタビガの繭利用にも積極的に取り組んでおります。ウスタビガの繭は、その堅牢さから糸として使われたことはほとんどありません。しかし、家蚕繭を非繊維として利用するなら、ウスタビガの繭も糸以外に活用法を見いだせると考えるのは当然だと考えます。

 現在、同じく(株)バイオコクーン研究所との共同研究により、これまでよりも安心安全な製法によるウスタビガ繭の粉末化を進めております。
 ウスタビガの繭は人の皮膚に近いアミノ酸組成を有するだけでなく、紫外線の反射吸収、抗菌性など様々な機能が分かってきています。
 これらを活用し、化粧品を含めた今までにない商品開発に取り組んでいます。



○ウスタビガの大量飼育について




 日本はもちろんのこと、世界的に見てもウスタビガの大量飼育の例はありません。

 これまでウスタビガを初めとする野蚕の繭が有用であると分かっていても、産業につながらなかったのは、大量に飼育出来なかった側面もあります。

 すでに弊社では、那須地域の圃場を整備し、年間10,000個を超える繭、蛹の生産が可能となっています。

 これまで大量に飼われたことのない昆虫ですから、その卵の確保すら困難でした。

 大量飼育を進めるにあたり、福島県南部から栃木県那須地域まで総移動距離7,000km走り続け、必要な卵の採取を行いました。

 他にも大量飼育ならではの難しさがありましたが、現在は安定して飼育可能となっています。







ウスタビガの一生とその特徴について

ウスタビガの一生をまずはイラストでご覧下さい


 ウスタビガも完全変態する昆虫ですから、家蚕とサイクルはさほど変わりません。ただ野生の蚕である「野蚕(やさん)」なので、家蚕のように屋内ではなく、厳しい自然の中で成長していきます。


 ウスタビガに特徴的なものは、その色褪せない鮮やかな緑の繭と、繭である期間が、4か月と非常に長期間に渡ることです。家蚕だと10日間程度、同じ野蚕の天蚕(ヤママユガ)でも2か月ほどですから、ウスタビガの繭の期間が如何に長いかが分かります。

 か弱い蛹を厳しい環境から守る為に、ウスタビガの繭や蛹は、様々な素晴らしい機能を備えていると期待されています。