時代を先取りするバイオスプリング事業-
「野蚕のやる気」はそのスタート



 株式会社バイオコクーン研究所代表取締役社長・
岩手大学名誉教授
鈴木幸一

 

バイオスプリング事業の「野蚕のやる気」は、わが国の環境と生物多様性の理解を深め、そのケア成分のαリノレン酸とナイアシンは健康寿命の最前線研究に導きます!



1. われわれに地球環境を考えさせてくれる「野蚕のやる気」の素材
21世紀になって人類は本当に幸福になったのでしょうか。宗教の違いによるテロ事件・核保有をめぐる国家間の防衛費の競争・便利さの追求による地球規模の環境破壊・人類最大の発明と言われる資本主義の矛盾など、どれもが人類の未来を脅かす難題になっています。
わが国だけでも、1)頻繁な自然災害の発生や、2)高齢化社会に伴う国民医療費の増大は、次世代の若い人も子供も、希望の持てないこの国の在り方に警鐘が鳴らされています。 この二つのわが国の警鐘の解決の糸口として、少なからずバイオスプリング事業にあると期待しています。自然災害に対する国土保全には、管理する森林育成が重要な対策であり、商品第一号の「野蚕のやる気」の素材となるウスタビガの食樹は、落葉樹のコナラ・クヌギ類で、里山の象徴でもあり生物多様性にも貢献しています。
コナラ・クヌギ林のドングリは、野生動物たちの食料であり、樹液は昆虫たちの大好物です。従って、コナラ・クヌギ林は動物たちとの共存にも大事な樹木になります。新しい事業のためのウスタビガの飼育のために、動物たちの共存とは区別しながら、コナラ・クヌギの飼育林が不可欠になります。「野蚕のやる気」の製造販売には、大量のウスタビガ飼育 → その上流のコナラ・クヌギ林の野生動物たちの営みまで理解を深めることが、環境保全の大切な思考になります。すなわち、これまでの産業の在り方は目先のビジネスに邁進するだけで、深い配慮に乏しいために環境に負荷のかかるシステムだけが特化してきたのだと考えています。バイオスプリング事業は、従来の産業の在り方に対するアンチテーゼになりますし、未来の人類の生存様式に対する一つのヒントを提供する意義ある産業になると考えます。 もう一方、人類の生存には地球環境に負荷のかからない新しいタンパク源として昆虫食料が着目されています。昆虫の場合は飼料変換効率が高く、牛肉1キロの生産のために飼料8キロが必要ですが、昆虫肉であれば2キロです(文献1、2)。また、温室効果ガス生産は昆虫に比較して家畜の場合は10〜100倍高いとされています。このようにウスタビガの食樹となるコナラ・クヌギ林の生物多様性や国土保保全に加えて、ウスタビガのタンパク質もまた地球環境に負荷のかからない人類生存のための新しいタンパク源に発展する可能性が大いにあります。
今回の「野蚕のやる気」の商品には、21%のタンパク質が含まれており、これは「牛もも肉」並みのレベルです。しかし、この製品は健康食品ですので、これでタンパク質を摂取するということではないのですが、近い将来、宇都宮名物の代表的な餃子に、世界で初めて、「ウスタビガのタンパク質を素材にした餃子」が誕生し、地球環境に配慮した代表的な昆虫食として登場することを期待しています。

2.「野蚕のやる気」のケア成分のαリノレン酸とナイアシンはライフサイエンス研究の最前線
カイコ(または家蚕)やヤママユ(または天蚕)に関する科学的な情報はたくさんありますが、ウスタビガの場合、ヤママユと昆虫分類上同じヤママユガ科の仲間にもかかわらず、科学的なアプローチはほとんど成されてきませんでした。研究者の興味を引かなかったのは、ウスタビガの繭が生糸として利用されてこなかったのが最大の理由になります。だからこそ、科学的な知見の少ないウスタビガに着目し、それを一つの産業にした富士発條(株)のスプリング事業立ち上げの英断には敬意を表しますし、オンリーワンの事業として昆虫食到来の先陣を切って成功させていただきたいと期待しています。
  科学的な知見のほとんどない中で、「野蚕のやる気」の成分分析では、オメガ3脂肪酸の一つのαリノレン酸が11.7%(100gのウスタビガ蛹粉末中)も含まれていることが明らかにされています。αリノレン酸はヒトの体内では合成されず、全死因死亡のリスクを下げる働きがあるといわれており(文献3)、植物にはクルミに多く、魚介類ではオメガ3脂肪酸のDHAとEPAが知られています。クルミのαリノレン酸は13.3%で、青みの魚類でもオメガ3脂肪酸(DHA とEPAも含む)含量の多いサバで16.8%です。αリノレン酸は(DHA + EPA)の前駆体でもあり、この3種類の脂肪酸はオメガ3脂肪酸の仲間になります(7訂増補日本食品標準成分脂肪酸成分表編)。すなわち、クルミのαリノレン酸並みにウスタビガ蛹には高含量含まれていることが明らかです。成人男性女性で約2グラムのクルミの摂取が進められていますが、「野蚕のやる気」の1日2カプセルには0.072gのウスタビガ蛹粉末が含まれていますので、約4%のαリノレン酸を体内に摂取することになります。 
もう一つのライフサイエンスの最前線となるウスタビガ蛹のケア成分は、ナイアシンです。ナイアシンはビタミンB3ともいわれ栄養素の一つでニコチン酸とニコチンアミドを含めたものです。成人男女の推奨量は1日11〜15 mgであり、野菜類のトップクラスの椎茸(乾燥)では16.8 mg/100 g含まれ、魚介類のトップクラスのビンナガマグロ(生)では20.7 mg/100 gのレベルになります(公益財団・長寿科学振興財団の健康長寿ネット)。「野蚕のやる気」には、20.9 mg/100 g含まれており、このレベルは魚介類のビンナガマグロに匹敵しますが、「野蚕のやる気」1日2カプセルには約 2 mgのナイアシンが含有されています。この量は、成人男女の推奨量の13〜18 %になります。
しかし、ナイアシンの重要な点は、最近の機能性に関する最前線です。ナイアシンのニコチンアミドから体内の肝臓やその他の臓器で、「ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)」が合成されます。このNMNが2011年と2016年の論文で、「若返りのビタミン」として紹介されました(文献4、5)。通常の老化マウスにNMNを経口投与すると、老化に伴う体重増加を抑制し、エネルギー代謝を促進し、インスリン感受性と血清の脂質構成を改善し、さらに老化関連遺伝子の発現を抑えながら、ミトコンドリアの酸化代謝を増加させるという抗加齢のメカニズムが発表されました。現在はヒト試験で検証されていますが、「若返りのサプリメント」として期待できるかどうかは、今後の一層の研究開発が必要になります。
以上のように、「野蚕のやる気」に含有されているαリノレン酸とナイアシンは、それぞれ1日2カプセルの摂取では、1日必要な量としてαリノレン酸は約4%、ナイアシンは約15%にとどまりますが(これ以外は、食事のバランスが大切です)、現代の食品の中でも注目度の高い機能性成分として、両者は科学的研究の最前線に位置づけられています。
このαリノレン酸は全死因死亡のリスクを下げ、ナイアシンは若返りのビタミンとして研究開発が進められていることは、国民の医療費削減のためにも極めて意義深いことであり、オンリーワンのウスタビガ蛹粉末を素材とした「野蚕のやる気」の製品は、高齢化社会に突入している現代において、一人一人の深い思考と限りない期待の扉を開くことになります。

3. 伝承のヤマピコから養蚕イノベーションへの期待
ウスタビガの繭は、若草色とか緑色とかのように表現されています。採取季節や地域で異なるようで、緑系の伝統色一覧に照らし合わせてみると、柳緑(りゅうしょく、青みの強い黄緑色)、黄浅緑(きあさみどり、鮮やかな黄緑色)、萌黄色(もえぎいろ、若葉のさえた黄緑色)までのカテゴリーに属する天然色になります。わが国の先人の生活にも密着しているようで、呼称「ヤマピコ」は、福島県・山形県・秋田県・岩手県などで確認されています(文献6、7)。また、岐阜県の一部では「ヤマカマス(かます)」という繭の形が二つ折りした袋の形に由来するということです。さらに、「ヤマピコの語源の山彦」は、山の神であり、繭の中に小豆を入れた子供の魔よけや繭そのものを背守りにする風習から、わが国の伝承上のウスタビガは、先人の知恵の一部として生活に根差していることが垣間みられます。先人は野生のウスタビガの繭についても、天蚕(ヤママユ)の繭のように生糸にして繊維の活用に挑戦したものと想像されますが、それが叶わずに現代まで受け継がれてきています。
そこで現代としては、伝承のウスタビガから「非繊維型の養蚕イノベーション」の一つとして(文献8)、新たな利活用の視点から挑戦しているのが、富士発條(株)バイオスプリング事業の商品第一号の「野蚕のやる気」になります。従来の繊維産業から脱却し非繊維型の商品開発の結果、「野蚕のやる気」が誕生しています。
この製品の素材となっているウスタビガはグローバルな視点から、1)人類が抱える地球環境の改善にも結び付き、2)人類のための新タンパク源も提案していますし、3)ウスタビガ蛹粉末に含まれるαリノレン酸とナイアシンは健康寿命延長の最前線のケア成分になっています。
このような大きな社会的な使命を果たすために、商品第一号の「野蚕のやる気」が開発され、これを世に出した富士発條(株)のライフサイエンス事業は地方からのグローバルな挑戦であり、お客様には是非この商品に込められた高い可能性をご理解していただければ望外の喜びとなります。

引用文献
1. Halloran, A. and Vantomme, P. (http://www.fao.org/forestry/edibleinsects/en/):昆虫の食糧保全、暮らし、そして環境への貢献(翻訳者、シャーロット・ペイン、前野尚慈・野中健一).
2. 水野壮(2016):現代の昆虫食の価値-ヨーロッパおよび日本を事例に. 国際交流研究:国際交流学部紀要18, 159-178.
3. 武田薬報web: ω3系多価不飽和脂肪酸(EPA・DHA)を効果的に取り入れ、食生活を見直そう.
4. Yoshino, J., Mills, K.F. et al. (2011) Nicotinamide mononusleotide, a key NAD+ intermediate, treats the pathophysiology of diet- and age-induced diabetes in mice. Cell Metabolism 14, 528-536.
5. Millis, K.F., Yoshida, S. et al. (2016) Long-term administration of nicotinamide mononuleotide mitigates age-associated physiological decline in mice. Cell Metabolism 24, 795-806.
6. 脇田雅彦・脇田節子(1999)ウスタビガのマユの伝承-岐阜県を中心に. 民具マンスリー. 31, 7065-7077.
7. 三田村敏正(2013)繭ハンドブック, (株)文一総合出版, 東京, p112.
8. 鈴木幸一(2016)国民医療費削減と地方創生を目指した非繊維型養蚕イノベーションの提案. 蚕糸・昆虫バイオテック 85, 59-61.


弊社、富士発條株式会社バイオスプリング事業では、各研究機関の協力を仰ぎながら商品開発を行っております。
「野蚕のやる気」を起点とした様々な健康食品やサプリメントだけでなく、ウスタビガが生み出す“恵み”をより広めるため、その美しい繭を配合したシルク化粧品の開発をスタートさせております。